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2012年10月6日、東京都品川区にある、JR山手線・大崎駅前で開催された『ゆるキャラ(R)サッカー大会』に、まだ無名だった【ふなっしー】が登場した。

きっかけはツイッターだった。
 
イベントを主催する、大崎一番太郎のもとに、ふなっしーの熱烈なファンから「サッカー大会にふなっしーを出して欲しい」とリクエストが届いたのだ。
 
すでに募集は締め切っており、ポスターやトレーディングカードの制作を任されていた僕としては、正直「困ったなあ……」と思っていた。

しかし、印刷物の入稿は翌日だったため、思い切って誘ってみることにした。

すると、すぐにふなっしー本人からメールが届き、なぜか股間にモザイクのかかった卑猥な画像が送られてきた。

時間もなかったので画像をそのまま使ったが、印刷所から校正が入るたびに「なんかモザイクかかってるんですけど、大丈夫ですか?」という問い合わせの電話が入った。
 
その度、「わざとなんで大丈夫です」と応えていたのだが、このやりとりはふなっしー関連の印刷物を作るたび、いまだに繰り返されている。

ふなっしー

そしてサッカー大会当日、配布されたふなっしーカードは無名だったせいもあり、「気持ち悪いからいらない…」「他のと代えてほしい」と、返品率が圧倒的に高かったという。

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この『ゆるキャラ(R)サッカー大会』は、サッカーボールでペットボトルを倒すというボーリングのようなルールで点数を競い合ったのだが、調布市・仙川商店街のキャラクターであるハーモニー君の靴がボールを蹴った勢いで飛んでいってしまったり、鳥取県から駆けつけてくれた白兎跳神イナバスターの点数が意外と奮わなかったりと、イベントはハプニングの連続で大いに盛り上がった。

そんな中、ふなっしーは絶妙なボールさばきで密かに実力で勝ち上がっていった。
 
決勝戦の前に、各キャラクターの合計点を計算してみたら、ふなっしーが断トツ1位で、スタッフ一同おどろいたのを覚えている。
 
サッカー場で転がったりプルプル揺れながらも、地道に得点を稼いでいたのだ。

そしておとずれた決勝戦。
 
『ゆるキャラ(R)グランプリ2011』で王者に輝いたくまモンとの対決は、練馬の防災ヒーロー・ネクロマンの提案によって、PK対決が採用された。

当初、キャラクター自身にキーパーをやらせるのは危険だろうという判断から、ネクロマンがキーパーとなり、くまモンとふなっしーが交互にボールを蹴りあうことになった。
 
しかし、かえってこれによって勝負はつきにくくなり、ネクロマンがウケを狙ってふざけはじめたせいもあって時間ばかりが過ぎ、日が暮れ始めてしまった。

正直、イベントを企画した人間としては、この展開には非常に困ってしまった。
 
そしておそらく、応援に駆けつけてくれたくまモン隊のスタッフもその状況を察したのだろう。

「ネクロマン抜きで、くまモンとふなっしーを思いっきり戦わせてやりたい」と申し出たのは、くまモン隊のお兄さんだった。

たとえ、このふざけた状況でくまモンが勝っても、「ヤラセ」疑惑が残ってくまモン自身に悔いが残るという思いもあったかも知れない。

なんせ、くまモンはハーフタイムの時に実際に使うボールをこっそり蹴って練習したり、ゴールまでの距離を測るなど、かなり本気で優勝を狙っていたのだ。

こうして、くまモンとふなっしーのガチンコ対決が実現したのである。

だが、この時の会場のお客さんはくまモンファンばかり。

ふなっしーにとっては完全にアウェイだった。

当時を振り返ると、「くまモンがんばって〜」、「ふなっしー勝たないで〜」という子供たちの声援は、梨汁があふれるほどのプレッシャーだったという。

そして、さらなる悲劇がふなっしーを襲う。

なんと勢いよくボールを蹴った衝撃で足の裏が破損し、キャラにとって見えてはいけないシークレットな部分があらわになってしまったのだ。

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ゆるキャラ業界には「中の人を見せてはいけない」という“鉄の掟”があるらしく、かつて、テレビ番組『ガチガセ』でに●こくんの内臓が飛び出してしまい、ネットを中心に大騒ぎになってしまったことがある。

あわてた僕は自分の靴を脱いでふなっしーにはかせ、これは中止もやむを得ないと覚悟しながらふなっしーに声をかけた。
 
だが、返ってきたのは「ありがとなっしー。でも、まだやれるなっしー」という意外な応えだった。

しかし、さすがにくまモン隊のお兄さんは怒っているのではないかと心配になり、「本当にいいんですか?」と恐るおそる訊ねると、「続けましょう。くまモンはふなっしーとの決着をつけたがっています」と、こちらも男前な応えが返ってきた。

これはイベントに関わったキャラ全員、「ゆるキャラ業界追放」も有り得るなと不安になりつつも、くまモンやふなっしーの意気込みに心打たれ、試合を再開。
 
死力を尽くして戦う二匹を囲んで、会場には異様な空気がたちこめていた。

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そして上の写真が、ふなっしーのラストシュートである。

それまで互いに無得点だった両者の拮抗が、くまモンの先取点で崩れ、ふなっしーがゴールを決めれば再び同点、外せばくまモンの優勝という運命の瞬間だった。

画面右下に飛んでいる丸い物体は、ふなっしーの”足の裏”である。

しかし、足の裏という犠牲を払いながらも、シュートしたふなっしーのボールは、ゴールのド真ん中で待ち構えていたくまモンによって跳ね返されてしまった。

くまモンの優勝が決まり、一気に会場全体にみなぎっていた緊張がゆるむのを感じた。

どんな相手にも全力を尽くして戦う「王者」くまモンと、満身創痍になりながらもそれに応えるふなっしー。

間違いなく、ゆるキャラ史に残る名勝負であった。
 
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ちなみに、くまモンは2012年10月12日にホームグラウンドの熊本で、広島のキャラクター・ブンカッキーとのPK対決に敗れているため、ふなっしーはゆるキャラサッカー界では実質、第3位ということになる。

<写真提供:波多野 仁>
_SL500_AA300_Text by 犬山秋彦

ライター兼デザイナー。戸越銀次郎・大崎一番太郎など、ご当地キャラのマネージャーでもある。

近著:『ゆるキャラ論』(共著者:杉元政光)